現代の日本市場において、
マットレスブランドとして成立するために必要な要素は、大きく三つある。
一つ目は、高スペックで分かりやすい商品MD。
二つ目は、一定水準以上の寝心地。
そして三つ目が、ブランドストーリーである。
この三つが高いレベルでバランスしている代表例が、シモンズだ。
シモンズは、6.5インチ、線径1.9mmを軸に、
硬めからややソフトまで、抜け目なくラインナップを揃えている。
その寝心地は、世の中の八割程度の人にとって
「大きな不満の出にくい範囲」にきれいに収まっている。
しばしば
「ポケットコイルの元祖」と語られるが、
正確には、それを標準化したブランドと言った方が近い。
ポケットコイルという仕組み自体は、
シモンズ以前から存在していた。
だが、それを安定した品質で、同じ寝心地のまま、
大量に供給できる体制を作った。
ここに、シモンズの本当の強さがある。
極端な冒険はしない。
その代わり、失敗もしない。
この姿勢が、商品MDとしての完成度を押し上げている。
そこに、
高級ホテルでの採用実績や、
百貨店という売り場の文脈が重なり、
「きちんとしたマットレス」という物語が出来上がった。
では、この三つの要素のうち、
どれが最も重要なのか。
答えは明白で、三つ目のストーリーである。
スペックや寝心地は、
消費者にとっては驚くほど優先順位が低い。
それは、エアウィーヴの隆盛を見れば容易に理解できる。
注目され始めたスケート選手をいち早くサポートし、
合宿に向かう荷物の中で、
最もカメラに映る位置に商品ロゴを配置する。
それをニュース番組が取り上げる。
それを見た主婦が、
「ウチの旦那にどうかしら……ついでに私も……」
と関心を持つ。
こうした積み重ねが、
やがて大きな流れとなり、
二十年を経た今、
エアウィーヴは一大ブランドとして定着した。
その過程で、
スペックや寝心地が丁寧に語られた記憶は、ほとんどない。
構造を冷静に見れば、
太い樹脂繊維を三次元的に編み込んだものに
カバーを掛けただけの、極めてシンプルな構成である。
身体の凹凸を精密に捉える性能は高くなく、
寝心地は、どちらかといえば畳に近い。
理屈で考えれば、
女性には硬すぎるはずだ。
それでも受け入れられているのは、
日本人、特に女性が
硬い寝心地に対して横向き寝で適応する文化を
長く身につけてきたからだろう。
つまり、
ブランドを成立させる決定打は、
必ずしもスペックや寝心地ではない。
どんな物語をまとっているか。
それが、購入の最後の一押しになる。
マットレスブランドにおいて必要なものとは、
良いものを作ることに加えて、
**それを「正しく伝え、信じてもらう力」**なのである。