ベッドサイズは意外と統一されていない
ベッドのサイズについて真剣に考える機会は、一般の方にとってそれほど多くないだろう。
シングル・セミダブル・ダブルあたりまでは比較的分かりやすく、安心して選べるサイズと言える。
かつてはメーカーごとに微妙な差があったシングルサイズも、現在ではほぼ97cm前後に収斂している。
セミダブルは120cm前後、ダブルは140cm前後で、各社とも±2cm程度の差に収まっている。
この程度の差であれば左右で0.5〜1cm程度であり、見た目で大きさの違いを判断することはまず出来ない。
そのため「ダブルサイズで」と指定して購入しても、大きな問題が起きることは少ない。
(ボックスシーツを購入する際は、厚さだけ確認すれば十分である)
問題が起きやすいのは、ダブルよりも大きいサイズを選ぶ場合だ。
いわゆる「クイーンサイズ」には
150cm
152cm
153cm
154cm
160cm
163cm
170cm
といった複数の幅が存在し、メーカーごとに異なる呼び方で販売されている。
つまり業界として厳密な統一規格が存在しない。
そのため
客
「クイーンサイズください」
A店
「クイーンサイズ(170cm)のマットレスですね」
B店
「クイーンサイズ(150cm)のベッドフレームですね」
C店
「クイーンサイズ(160cm)のボックスシーツですね」
という、笑えない状況が起こり得る。
キングサイズはこれよりやや整理されているものの
180cm
194cm
200cm
といった幅が混在しており、最大で20cmもの差がある点は同様である。
したがって、ダブルより大きいサイズを選ぶ場合は
「クイーン」
「キング」
といった呼び方ではなく
「幅◯◯cm」
で指定することを強く推奨する。
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なぜサイズが統一されていないのか
この混乱の背景には、それぞれのメーカーの出自が関係している。
アメリカではベッドサイズの規格はほぼ統一されており、クイーンサイズは
152 × 203 cm
(60 × 80 inch)
が標準とされている。
インチ表記をセンチ換算する際の丸め方によって、150cm〜153cm程度の差が生じることがある。
つまり
150cmをQ1サイズとするサータも
152cmをクイーンサイズとするシモンズも
それぞれ合理的な背景を持っているのである。
ところがここに、153cm=ダブルワイドという全く異なる呼称でシーリーが割り込んでくるため、話はさらにややこしくなる。
ではシーリーにとってのクイーンサイズは何cmなのか。
答えは 170cm である。
シーリーは現在、スリープセレクトによってライセンス生産されている。
スリープセレクトの前身はシーリージャパンであり、さらに遡るとすずらんベッド工業へと繋がる。
すずらんベッドがマットレスの製造を開始したのは1971年。
当時の日本市場ではフランスベッドが圧倒的な存在感を持っていた。
そのため後発メーカーであったすずらんベッドが、市場で広く流通していたサイズ体系に合わせて規格を設定した可能性は十分に考えられる。
フランスベッド系のクイーンサイズは170cmであり、この流れを汲んだ結果、現在のシーリーにおいても
153cm=ダブルワイド
170cm=クイーン
という独特のサイズ体系になっていると考えると辻褄が合う。
つまり、アメリカンブランドであるシーリーでありながら、日本ではフランスベッドの影響を受けたサイズ構成になっている可能性があるということだ。
もちろん公式に明言されているわけではないが、ブランドの成り立ちを辿ると見えてくる、なかなか興味深い背景である。
では、フランスベッドは何故170cmという国際標準には存在しないサイズを「クイーン」として設定したのだろうか。
明確な公式資料が残っているわけではないが、当時の時代背景を考えるといくつかの仮説が浮かぶ。
1960年代の日本は高度経済成長期の真っ只中であり、「これまでより少し豊かに」「少し余裕のある生活へ」という価値観が広がっていた時代である。
例えば1966年に登場した初代 トヨタ・カローラ は「プラス100ccの余裕」というキャッチコピーで 日産サニー を強く意識して登場し、その後も排気量競争が繰り広げられた。
当時は「少しでも広い」「少しでも余裕がある」こと自体が価値として認識されやすい時代だったと言える。
ベッド市場においても、それまで主流であった布団のサイズ感から一歩進み、夫婦でゆったり眠れるサイズとして、ダブルよりも余裕のある幅が求められていた可能性は高い。
フランスベッドが採用した170cm幅をクイーンサイズとする考え方は、実は他にも影響を残している。
グループ企業である東京ベッドはもちろん、現在ではニトリも170cm幅をクイーンサイズとしている。
創業当時の日本市場において圧倒的な存在感を持っていたのはフランスベッドであり、多くの家具店が同社製品を扱っていた時代が長く続いていた。
そうした市場環境を考えると、後に自社でベッドを開発する際、当時広く普及していたサイズ体系をベースに設計された可能性は十分に考えられる。
結果として現在でも
170cm=クイーンサイズ
という規格が一定の存在感を持ち続けているのである。
ここまでで
150cmクラス=アメリカのクイーンサイズ
170cmクラス=日本のクイーンサイズ
という構図がお分かりいただけただろう。
では160cmクラスはどこから来たのか。
答えはヨーロッパである。
ヨーロッパと一口に言っても国ごとに事情は異なるが、イギリスを除く多くの国では、そもそも「クイーンサイズ」という呼び方自体が一般的ではない。
彼らは
160×200cm
のように、寸法そのものを指定して選ぶ。
この160cmというサイズは、80cm幅のマットレスを2枚並べるという欧州で一般的な構成に由来している。
シングルを2台並べて使う文化が根強く、
80cm+80cm=160cm
というサイズが自然に普及したと考えられる。
結果として
150cm(アメリカ系)
160cm(ヨーロッパ系)
170cm(日本ローカル)
という3系統の「クイーン相当サイズ」が市場に混在することになった。
つまり、日本のサイズ体系が特別に複雑というよりも、
世界的に見ても「クイーン」という名称自体が曖昧な概念
なのである。