旧世代マットレスと「ヘタらない」という安心感

スプリングマットレスの起点は、
ボンネルコイルである。

鼓型のバネをヘリカルワイヤーで連結するこの方式は、
構造上、隣り合うバネが互いに影響し合う。
さらに横方向にも連結されているため、
振動が伝わりやすいという欠点を併せ持つ。

この方式を、
あえて現代に採用する理由があるとすれば、
多くの場合は予算的な制約だろう。

次に登場したのが、
連続コイルである。

一本の鋼線を連続的に成形し、
それをヘリカルワイヤーで束ねる構造は、
技術的進化というより
生産性とコストを重視したものだった。

バネ同士が繋がっているという本質は変わらず、
腰部と臀部の隙間を埋めるような
きめ細かな追従性は得られない。

結果として、
寝心地はボンネルコイルと大差ない。
多少ましなのは、
ヘリカルワイヤーが縦方向であるため、
隣で寝る人の寝返りの振動が
わずかに伝わりにくい点くらいだ。

フランスベッドの
高密度連続スプリングは、
この連続コイルのバネ径を小さくし、
バネ数を増やした構造である。

理屈の上では、
バネ数が多いほど
身体にフィットする可能性は高まる。

だが、
バネ同士が繋がっている以上、
どうしても限界がある。

連続コイルが
ポケットコイルの寝心地を
根本的に上回ることはない。
これは好みの問題ではなく、
構造の世代差である。

それでもなお、
現場で連続コイルが選ばれる場面は存在する。

それは、
体格が大きく、
荷重が一点に集中しやすいケースだ。

販売の現場で恐れられるのは、
寝心地の不満ではない。
将来的なヘタリのクレームである。

ここで、
もう一つ誤解を正しておきたい。

現在のポケットコイルマットレスは、
数年でヘタるような代物ではない。

きちんとしたメーカーの製品であれば、
通常使用において
数年で明確な性能低下が起きることは、
実際ほとんどない。

それでも、
「ヘタらないものが欲しい」
という声は根強い。

なぜか。

連続コイルは、
沈まない。
変わらない。
見た目が変わりにくい。

つまり、
クレームになりにくい。

だから現場では、
身体に合うかどうかよりも、
「問題にならなそうな構造」が
無意識に選ばれてしまう。

だが、
ここに大きな落とし穴がある。

ヘタらないことと、
良いマットレスであることは、
イコールではない。

連続コイルが変わらないのは、
優れているからではない。
身体に合わせて
変化する余地を持たないからだ。

最初から
沈まず、
馴染まず、
追従しない。

一方、
ポケットコイルや
適切なクッション層を持つマットレスは、
身体の重さを受け止めながら、
ごくわずかに性質を変え、
使う人に馴染んでいく。

これは劣化ではない。
経年による適応である。

革靴が、
履くほどに足に馴染むように、
マットレスもまた、
使う人との関係性の中で
微調整されていく。

それを一律に
「ヘタリ」と呼んでしまうから、
話が歪む。

ヘタらないマットレスは、
確かに安心感がある。

だが、
身体にフィットしないまま
十年使い続ける寝具と、
長期間にわたって性能を保ちながら、
使う人に馴染み続ける寝具。

どちらが
「良いマットレス」なのかは、
本来、明白なはずだ。

マットレスに必要なのは、
不変性ではない。

適応性である。

旧世代の構造が
いまだ市場に残り続けている理由は、
性能の高さではない。

「変わらない」という
分かりやすい安心感と、
クレームを避けたいという
現場の論理。

その延長線上に、
連続コイルは存在している。

それを理解したうえで選ぶなら、
連続コイルは
決して間違いではない。

だが、
身体に合わせる寝具を求めるのであれば、
あえて旧世代を選ぶ理由は、
やはり見当たらない。