シーリー・クラウンジュエル、軟らかさの“黒船”再び

かつて、日本のベッド市場はフランスベッドの「板かよ!」と突っ込みたくなる硬派なマットレスが牛耳っていた。そんな中、米国からやってきた“黒船”シーリーが、クラウンジュエル(以下、CJ)をドカンと投入。まるでアメ車のV8エンジンのごとく、豪快でふわっふわの寝心地をひっさげ、日本市場に殴り込みをかけた。

だれもが「こんなもの売れるわけがない」と考えていたが、あにはからんや結果は大当たり。一時的とはいえ、シーリーはブランドイメージで他を圧倒し、「ホテル=シーリー」の方程式を築き上げた。シモンズ? 当時はシーリーの足元にも及ばなかったのだ。もはやそんなことを覚えている層もすっかり減ってしまったが。

2023年現在のCJガーナイト4は、その末裔。寝心地はまるで雲の上を漂うような、ふんわりふわふわの超軟らか仕様。マットレス界のソフトさでは、今なおトップクラスだ。腰のカーブが深い“反り腰”の女性にはピッタリ。背中やお尻の筋肉が盛り上がり、肩幅ガッチリのアスリートにも、意外とハマる。

レストサポートコイルと名付けられた、重い負荷で硬くなるスプリングに、ポケットコイル風の動きをする1.5巻の“オマケ”が付いている。これはなかなか凝った造りである。

だが、クッション層が分厚すぎて、この芸の細かさがほぼ埋没。まるで、ハイテクサスペンションを搭載したクルマなのに、ふわふわのシートでその性能を感じられないようなもどかしさだ。

さらに、ポケットコイルではなく、ヘリカルワイヤーで横に連結されたコイル構造ゆえ、パートナーとの2人寝には向かない。隣の寝返りが振動となってモロに伝わる。例えるなら、スポーツカーの助手席でドライバーのハンドル操作を逐一感じるようなものだ。気にならない人ならいいが、睡眠中の音や振動に敏感な女性にとっては、これは死活問題。生物学的にも、女性はこういう微妙な揺れに目ざとく反応するらしい。購入前には、ぜひ2人で試し寝することをお勧めする。

結論だ。1人で使うなら、この「雲の上のふわふわ」を求める向きには、CJガーナイト4は候補に挙がるだろう。だが、2人寝を考えているなら、ちょっと待て。まるで、ソロドライブ専用のスポーツカーを、ファミリーカーとして買うようなものだ。試乗、いや、試寝は必須だぞ。