シモンズのポケットコイル、その“元祖”の矜持
バネ一つ一つを袋に詰めて独立させ、体の凹凸にしなやかに寄り添うポケットコイルの“大量生産に成功した”のはシモンズだが、その基本の一枚がこれである。シングルサイズで578個、6.5インチの1.9mm線径コイルが全面に並ぶ。その寝心地はやや硬め。日本人の「これぞマットレス!」という期待に応える、王道の仕上がりだ。
標準的な体格の男性なら、寝返りを打つたびに「ふむ、悪くない」と頷くかもしれない。だが、腰のカーブが深い、いわゆる“反り腰”の女性には、ちと硬すぎる。まるで、スポーティなサスペンションのクルマに乗ったはいいが、路面のギャップをモロに感じるようなものだ。それでも、だ。このマットレス、守備範囲は広い。よほどのこだわり屋でなければ「まあ、こんなもんか」と許容できる、懐の深さがある。
例えるなら、フォルクスワーゲンのゴルフだ。万人受けするベーシックな実力派。だが、ちょっと待て。ゴルフも世代を重ねるごとにデカくなり、値段も跳ね上がった。シモンズも同じだ。シングルサイズで税抜17万5千円。その“素朴な”設計を考えれば、ちと割高に感じるのは私だけか? 昔の大衆車が、今やプレミアムカーの領域に踏み込むようなものだ。
このシモンズ、過去20年、4~5年ごとにモデルチェンジを繰り返し、徐々に軟らかく、厚みを増してきた。ところが2021年、突然の方向転換。硬く、薄くなった(29.5cmから28cmへ)。
しかも、だ。これまで「ゾーニング? そんな小細工は不要」と頑なに非ゾーニングを貫いてきたシモンズが、ついに腰部補強のゾーニングを採用している。といっても、サータや東京ベッドのようなコイルの硬さを変える本格派ではなく、ウレタンを中央に貼っつけた簡易版だ。新品時は真ん中が妙に盛り上がって見える、なんとも不思議な仕様である。
そもそも、非ゾーニングのポケットコイル、つまり「頭から踵まで同じ硬さで支える」設計は、最近めっきり減った。サータ、東京ベッド、アンネルベッド、レガリアといった面々は、すでに「センターハード」の第二世代にシフト済み。残るはシモンズと日本ベッドくらいだ。なぜか? 生産設備の更新が面倒だからだ。シモンズにしてみりゃ、「黙ってても売れるんだから、急いで変える必要ないよね」というのが本音だろう。
だが、世の潮流は無視できない。ゾーニング仕様が「これが現代のスタンダードだ」と市場を席巻しつつある。シモンズも、ついに重い腰を上げ、ウレタンで“なんちゃってゾーニング”を始めたわけだ。まるで、ライバルがハイブリッドを搭載してきたから、仕方なくマイルドハイブリッドで対抗するようなものだ。
さて、この簡易ゾーニングで次の5年を乗り切るのか、それとも本格的なスプリングゾーニングに踏み込むのか。はたまた「第一世代のまま突き進むぜ!」と開き直るのか。シモンズの次の一手、注目に値する。